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名古屋高等裁判所 昭和35年(ネ)365号 判決

控訴人(原告) 若林二郎 外七名

被控訴人(被告) 名古屋郵政局長・東海電気通信局長訴訟承継人日本電信電話公社

主文

本件控訴はいずれも之を棄却する。

控訴費用は控訴人等の負担とする。

事実

一、控訴人等代理人は「原判決を取消す。被控訴人名古屋郵政局長が昭和二十四年八月十二日控訴人阿部はなを除く他の控訴人七名に対してなした免職処分及訴外東海電気通信局長が右同日控訴人阿部はなに対してなした免職処分はいずれも之を取消す。訴訟費用は第一、二審共被控訴人等の負担とする。」との判決を求め、被控訴人等代理人は主文同旨の判決を求めた。

二、当事者双方の事実上の陳述証拠の提出援用書証の認否は左記の外原判決事実摘示の通りであるからここに之を引用する。即ち、

(1)  控訴人等代理人は

(イ)  控訴人渥美義一の訴の利益について。

本件免職処分が取消されると控訴人は昭和二十四年八月十二日から鈴鹿市会議員当選の日である昭和二十六年四月二十三日まで公務員であつたわけであるからそれに伴う公務員から生ずる一切の利益は当然存在する。その間の給料請求権などは当然の利益であつて公務員たる地位から当然生ずるものであるから訴の利益なしとは考えられないはずである。

(ロ)  定員法(原判決の略称による。)の違憲性について。

定員法附則第八、九項において団体交渉権及苦情紛争の権利を奪つていることは定員法の右附則部分のみでなく定員法全体を違憲ならしめるものである。けだし、本件首切りが過員整理の名の下に行われた政治的首切りであつたために反溌をおそれて団体交渉権及苦情紛争の権利を奪つたものであり、右二項の附則こそ定員法の核心をなすものだからである。又整理が不可避的であり急速に実施する必要があつたことは定員法附則第五項の憲法違反を正当化する理由とならない。一時に数万にのぼる行政整理に対してそのほとんどが審査請求する事態を考えて請求権を奪つたものであるならば当初から整理の違法不当を自認していたものというべく、又単に多数を予想して請求権を奪うというのであれば許すべからざる暴挙というの外はない。さらに多数の者が審査の請求をすれば整理の進行も妨げられるおそれがあつたということも審査の請求が処分の効力を停止しないことに想到すれば理由のないことである。そして終局的に処分の当否を争つて裁判所に出訴する道が閉されていないことを以て冥すべしとするのは訴権の外にわざわざ審査請求を認めた―団体交渉権、争議権を奪う代償として人事院をおいた―所以を忘れ労働事件が全身的訴訟であり迅速な解決を必要とすること、訴訟上において労使の実質上の対等を特に考慮する必要があることから本来民事訴訟法になじまないことに目をつぶろうとするものというべきである。

(ハ)  整理基準違反について。

人事院が本件整理に先だち整理の消極的基準を設け能率の高いもの、優れた能力を有するもの、勤務年数の比較的長いもの、同種の職務に長い経験を有するもの、公務執行上必要なもの、勤務成績良好なるものを整理のわくから除くべきことを人事主任官会議において各省大臣に助言として提出した。この基準はその後国家公務員法第七十八条によつて定められた人事院規則一一―〇として法制化された。ところで、本件の整理基準は右の消極的基準を無視して定められたものであつて無効のものというべきである。仮に無効でないとしても右の消極的基準は就業規則として法的規範力を有しその故に関係者に一般的妥当性を有し制定者たる被控訴人と雖も之に拘束されるものであるから右消極的基準に違反した本件整理基準に基いた免職は違法な処分として取消さるべきものである。尚次の諸点について特に注意を要する。

(a) 本件の場合において控訴人等に職場秩序をみだす非違があつたとすれば、なぜその都度懲戒規定が発動されなかつたのであろうか。それが発動されなかつたこと自体労働慣行として看過されていたものというべきである。むしろ当時は戦後の混乱のため組合活動のためにする多少の時間の職場離脱、組合関係郵便物の無料取扱等は労働慣行として是認されていたのである。

(b) 控訴人松原、同伊藤、同阿部について掲げられた罪状が仮に認められたとしても、それだけのことで労働者に対し極刑ともいうべき免職該当事実があつたとなすことは残酷極まるものというべきであり免職権の濫用である。

(c) 控訴人若林、同寺本、同渥美、同伊藤、同福田、同阿部に関する事実中組合幹部としての行動は組合幹部は組合大会の決議執行機関である関係上その決議が違法であつたとしても之を執行すべきものであるから之を執行した組合幹部の責任を生ずべき理由がない。

(d) 秋田大会の決議については当時決議内容特にストライキ実現の可能性は到底考えられなかつたのであり、又労働者にそれ以下の合法的行為に出ることの期待可能性があつたかどうかも借問せらるべくそうすると、当時の情勢としては右の様な決議を支持することが団結又は要求貫徹のために必要な行為であつたことが首肯されよう。又当時、G、H、Qが日本産業別組合会議及その傘下の各組合の戦斗的傾向を以て共産党の組合支配によるものとし、組合民主化の美名にかくれて公然と民主化同盟を支援し、日本政府、従つて被控訴人等もその意を受けて組合の弱体化をはかつたことは公知の事実である。この様な場合正当防衛的に正当な組合活動の範囲は大幅に拡張せられるべきである。

(ニ)  本件は共産主義者及その同調者の排除を目的としてなされたものであり、且不当労働行為である点について。

先づ本件処分が共産主義者及その同調者を排除する目的でなされたことは次の事実によつて明である。即ち、

(a) 当時の電気通信省人事部労務課附事務官遠藤正介がその趣旨を電通省機関誌「電信電話」に発表したが、その意見を機関紙に発表させた電気通信省としても少くとも右の意見を認容したことによつて本件免職当時その意思を有していたことが推認できる。

(b) 本件被免職者中に組合役員又は著しい組合活動をしたものが不自然に多く含まれているがそのほとんどが共産主義者又はその支持者である。

(c) しかも共産主義者又はその支持者と同等あるいはそれ以上の組合活動をしたものでも共産主義者又はその支持者でないものは免職を免れている。

(d) 右免職を免れた者は使用者たる郵政省又は日本電信電話公社によつて優遇せられている。

(e) 被控訴人は本件免職前警察公安調査庁を通じて組合役員の思想調査を行い共産党員及同調者の名簿を作成したこと。

次に、本件免職は組合活動をなしたことを理由として免職にしたものであつて、不当労働行為であることは次の事実によつて明である。

(a) 前記(a)記載の遠藤正介の意見に之を明にしており之により電気通信省が反組合的意図を有していることは明である。

(b) 人件費を削減するための整理であるといいながら控訴人若林、同寺本、同渥美、同福田の各組合専従者を整理している。組合専従者は組合から給料をもらつているのであるから之を整理したとしても人件費の削減にならないはずである。

(c) 免職されたものの中には組合役員又は著しい組合活動をなしたものが不自然に多く含まれている。

(d) 免職がその反対闘争のさ中に行われたこと。

(e) 使用者の被免職者に対する評価が短期間内に変更していること。

(f) 控訴人等の行動のある部分については職場秩序びん乱と目されるものではなく、労働者として更に組合役員として当然許容さるべき組合活動の範囲内のことであり、しかも控訴人等は之につき一度も懲戒を加えられていないこと。

(g) 本件整理は昭和二十四年九月三十日までに実施すればよかつたのであり、当初より多数の希望退職者が予想され九月三十日現在においては多数切りすぎて混乱していること。

(h) 強制免職者の一部については組合活動をしないことを条件として復職を認め共産党を脱党することを条件として復職させると表明した事実。

(2)  被控訴代理人は

(イ)  右(1)(イ)に対し免職処分に対する取消請求の訴の目的は当該処分の取消を求めよつて以て処分前の原職に復帰せしめることを究局の目的とするものであるから、取消により現在においてもなお公務員たる地位を保有し得るものでなければならない。控訴人のいう様な過去における一定期間中における損害の如き別個に之を求めれば足りるのであつて、その故に免職処分取消の利益ありとなすことができない。

(ロ)  控訴人等の(1)(ロ)の主張について。

定員法附則第七乃至九項の規定が違憲でないことは昭和二十九年九月十五日の最高裁判所大法廷の判決(判例集民集八巻九号一六〇六頁)に照し、又同法附則第五項の規定の違憲でないことは昭和三十二年五月二十一日最高裁判所第三小法廷の判決に照しいずれも明である。

(ハ)  控訴人等の(1)(ハ)の主張について。

本件整理基準は控訴人等のいう消極的基準に反しているものではないし、又整理基準は人員整理をできるだけ公正ならしめるための一種の目安であるに過ぎないのであつて、控訴人等のいうように法規範性を有するものでもなく又就業規則に該当するものでもない。控訴人等の(1)(ハ)(a)の主張に対して。懲戒権を発動する場合には非違行為の行われたその都度行う場合と、各数個の非違行為の累積に価値評価して行う場合があるから、非違行為に対しその都度懲戒権を発動しなかつた事実をとらえて非違行為それ自体として、あるいは労働慣行として看過されたものと断ずべきではない。

控訴人等の(1)(ハ)(b)について。本件の場合の如く一時に大量の整理を断行しなければならない場合においては、定員を超える人数だけを免職処分に付せなければならない立場におかれているのであるから平常一般の場合において免職処分を付するに値しない非違行為であつたとしても、右非違行為を以て整理基準に該当するとしたとしても決して不当の措置ということはできない。このことは控訴人伊藤、同松原、同阿部についても同断である。

控訴人等の(1)(ハ)(c)について。組合において違法行為を内容とする決議をした場合においても組合幹部は法令上右決議を実行に移す自由を有しないこと勿論である。若し決議を実行に移したとすれば違法行為をなしたものとしてその行為責任を追及せられることは当然である。

其の余の控訴人等主張の(1)(ハ)の各事実はすべて争う。

(ニ)  控訴人等の(1)(ニ)の主張について。

本件整理は不当労働行為でもないし、所謂レツド、パージユでもない。所謂レツド、パージユの名の下に官庁機構から共産主義者又は同調者を排除したのは昭和二十五年秋から昭和二十六年春頃にかけて行われたものであり、しかも、その排除行為は当時わが国を占領していた連合国最高司令官が昭和二十五年五月三日以降において発した一連の声明書簡を以てした指示に基いたものであり、これより先である昭和二十四年八月十二日以降に行われた本件定員法に基く免職処分は之と本質を異にするのであつて整理に当つては思想的背景は一切考慮されていない。又定員法の制定の目的は控訴人等主張の如く人件費の削減にあること勿論であるが、人員整理の公平を期するために組合専従者と雖も一般組合員と同様整理方針及整理基準に該当する事実の存在する限り一視同仁的に整理するのが条理にかなうところであるから、専従者であつた控訴人若林、同寺本、同渥美、同福田等を処分したのであつて何等の不当の点はない。又一般的に強制的に首切りされたものの中には平素活溌に組合活動をなしたものが不自然に多く含まれているというが、被控訴人等はたとえ組合活動をしたとしてもそれが正当な組合活動の範囲内である限り整理の対象としなかつたのであり、之を逸脱し違法又は非協力の行為をなしたものに限り免職処分に付したものである。その余の主張事実はすべて之を争う。

(3)  証拠関係〈省略〉

理由

控訴人等の本訴請求の理由のないこと、並その理由については左記に訂正又は補充する外原判決記載の通りであるからこゝに之を引用する。

一、控訴人渥美義一の訴の利益について。

(1)  原判決二十七枚目裏末行に「昭和二十六年三月二十三日」とあるを「昭和二十六年四月二十三日」と、同二十七枚目裏末行から二十八枚目表一行目にかけて「当選し、引続き現在に至るまで同市会議員であること」とあるを「当選したこと」と各訂正する。

(2)  控訴人は免職が取消となれば控訴人は昭和二十四年八月十二日から鈴鹿市会議員当選の日である昭和二十六年四月二十三日まで公務員であつたわけであり、例えばその間の給料請求権を有することとなるから本訴の利益がないとなすことができないと主張する。然しながら、免職取消の訴は被免職者を原職に復帰せしめることを目的とするものであるから免職の取消により現在においてもなお公務員たる地位を保有し得る場合でなければならない。控訴人主張の如く過去の一定期間公務員であつたことに基く給料請求権の如きは別個の訴訟で之を訴求すれば足り、それ故に免職処分取消の訴の利益ありとなすことができないこと被控訴人主張の通りであるから控訴人の主張はその理由がない。

二、原判決二十九枚目表五行目「同寺本久義」とある次に「同福田静男」を加える。

三、定員法が違憲であるとの主張について。

定員法附則第八、九項及同法附則第五項の規定が原判決認定の如き定員法制定の事情の下においては憲法違反でないことについては既に被控訴人等の挙示する様な最高裁判所判例が存在しているのであるから定員法の右条項が違憲であるとの控訴人等の主張は採用することができない。定員法附則第五、八、九項が違憲でない以上同条項が違憲であることを理由として定員法全体が違憲であるとの主張も理由のないこと明である。控訴人等は種々の理由をあげて右定員法附則第五項及第八、九項の違憲性を主張するが右の如き最高裁判所の判例が存在することであるから之等の主張は採用しがたい。

四、(1) 被控訴人等は本件免職処分は国家公務員法第七十八条第四号及人事院規則一一―〇に規定する定員の改廃のための免職処分であるから任命権者の自由裁量に属すると主張するが、被控訴人等のあげる人事院規則一一―〇第四項自体がその但書において国家公務員法第二十七条に定める平等取扱の原則及同法第九十八条第三項に違反することを許されないと定めているのみならず、原判決に詳細に説明する通り本件処分は被控訴人等主張の整理方針及非協力の内示基準に従つて処理すべきものであつて、之に反するときは違法の処分として取消さるべきものと解すべきである。従つて、被控訴人等の主張はその理由がない。

(2) 控訴人等は本件整理基準は人事院の定めた消極的基準に違反するから無効であるか、仮に然らずとするも之に違反して定めた整理基準に従つてなされた本件免職処分は取消さるべきものであると主張する。そして、原審証人村山永喜、当審証人浜武司の各証言並弁論の全趣旨によれば本件行政整理に当つて控訴人等主張の如き六項目にわたる整理除外基準が人事院助言として示されたことをうかごうことができる。然しながら、それは本件整理方針及非協力の内部基準と相表裏する関係にあり、前者は消極的に、後者は之を積極的に表現したに止まり矛盾するものでないから控訴人等を整理基準及非協力の内示基準に該当するものとしてなされた本件免職処分は控訴人等主張の消極的基準にも違反しないものというべきである。されば、控訴人等のこの点に関する主張はその理由がない。

五、原審が控訴人等各個について認めた整理基準及非協力の内示基準該当の事実については左記に訂正する外当裁判所の判断も原判決記載の通りである。即ち、

(1)  右に関する原判決事実摘示(原告等が何れも本件整理の方針及通信事業に対する非協力の内示基準に該当する事実ありとの被告の主張欄)(一)(イ)の事実(以下すべて括孤内の記載を省略する。)については「昭和二十三年三月七日から九日まで三日間」とあるを「昭和二十三年三月七日頃」、「県下各支部に指令し」とあるを「県下各支部長会議で認めしめた上」と訂正して認めたものとする。

(2)  右原判決事実摘示(一)(ロ)の事実(従つて、同(ニ)(ハ)の事実も同様)認定の証拠として成立に争のない乙第十七号証、原審証人諏訪精一郎の証言を加える。

但し、右事実中「希望があれば五名以内の云々」とあるを「希望があれば組合員千人につき一人の割合にて」と訂正の上認めたものとする。尚、控訴人若林二郎については成立に争のない甲第四号証の三、四によれば昭和二十四年五月九日から正式に専従者休暇を得て専従者となつていることが認められるから同日まで手続をとらずして専従者同様の行為をしたものと訂正して認めたこととする。

(3)  原判決三十七枚目表五行目に「電信課長」とあるを「電話課長」の誤記と認める。

(4)  原判決事実摘示(四)(イ)の事実中「昭和二十二年十一月以降昭和二十三年一月七日まで担当事務である上野郵便局保険窓口事務を著しく怠り」とある部分を「昭和二十二年末頃から昭和二十三年一月七日まで上野郵便局保険窓口事務を著しく怠り」と訂正して認めたものとする。

右認定並引用する原判決認定事実に反する当審証人中貞夫、同水谷一三、同浜武司、同入山啓一、同樋口増二の各証言、当審における控訴本人源高司の供述は信用しがたく、他に右事実を左右するに足る証拠はない。

六、尚、次の諸点を附加える。

(1)  電信特殊有技者検定試験について。

控訴人若林は当時組合は超過勤務手当の完全支給を要求して超過勤務斗争中であつた。然るに、官側は勤務時間外の試験施行を通告して来たもので三重地区協議会は之を拒否することゝしたものである。又地区協議会は傘下各支部に対し指令権をもつものでないと主張する。そして、原審における控訴本人若林二郎の供述によれば概ね右事実が認められる様である。然しながら、当時は公務員についても争議権が認められていたといつてもその行使が無条件に認められていたものではなくそれを行使するについては労働関係調整法第八条第三十七条の手続を経なければならぬものである。本件の場合右受験拒否斗争をなすに当つて右手続を経たとは認められないこと成立に争のない乙第五号証の一、二により明であるから控訴人若林が受験拒否をなさしめたことは違法な争議行為をなさしめたものというべきである。尚、地区協議会が管内支部に対して指令権がなくても支部長会議を招集し之をして受験拒否を認めしめたこと前記認定の通りであるから右試験拒否をなさしめた事実を以て非協力認定の一つの資料に数えて何等差支えないものと考える。

(2)  控訴人等中組合専従者たる若林等が専従者の職場復帰命令に従わなかつたのは中央接渉が行われていたのでそれが終るまで中央本部又は上部団体の指令に従つたものであると主張する。そして、当審証人浜武司、原審証人村山永喜の各証言によれば、組合が従来有していた多数の組合事務専従者を一度に官の要求する少数の人数に切替え専従者の給料を組合員負担となすためには多少の混乱をまぬがれないことが認められるが原判決認定の如く約十ケ月にわたつて数度の復帰命令にも従わなかつたのであるから之を非協力認定の一つの事情と認めて差支えないであろう。従業員たる専従者の数を相当数に減ずべきことを命じ又はその給料を組合負担となすべきことを命じたとしても之を以て組合を否認するものとはいえないし、控訴人等が中央本部等上部団体の命令に従つて職場に復帰しなかつたとしてもその責任を免れることができないこと勿論である。

(3)  秋田大会の決議について。

控訴人等は同じく同大会に出席して右決議に賛成した増地卓等を免職しないのは不平等取扱であると主張するがが、控訴人等を整理基準及非協力の内示基準に該当すると認めたのは秋田大会の決議に賛成したことのみによつてでないことは右に引用する原判決によつて明であるから控訴人等の右主張はその理由がない。

又控訴人等は秋田大会の決議は実現可能性のないものであり、且組合の団結又は要求貫徹のためむしろ正当防衛的のものであると主張する。然しながら成立に争のない乙第八号証の一乃至四によるもその実現の可能性は全然ないとはいえないし、国家公務員法第九十八条第五項違反の決議を以て正当防衛的なものとは如何なる意味においても考えられないから控訴人等の右主張はその理由がない。

(4)  控訴人伊藤幸吉に関する昭和二十三年度貯蓄奨励目標設定打合会について。

原審における控訴本人伊藤幸吉の供述によれば控訴人伊藤は右打合会に出席するに当り組合員の意向を徴したところ天下り割当ではなく自主的目標額であれば之を受諾すべき意見であつたこと同控訴人は組合の代表者として右会合に出席したことが認められる。従つて、右打合会の席上において組合の意見を意見として述べることは正当の組合活動の範囲内の行為と認められるが、原判決に認めた如く宴席において係官から右組合の主張を認めしめる一札を強要するが如き正当な組合活動の範囲を逸脱するものとして非協力認定の一の資料となして何等差支えないものと考える。

(5)  控訴人等は原判決認定の職場秩序をみだした行為についてその都度懲戒処分が加えられなかつたことはそれ自体労働慣行として是認されていたものであると主張する。そして、又戦後の混乱期においては多少の時間の職場離脱、組合関係の郵便物の無料取扱等は黙認されていたものであると主張する。そして当審証人入山啓一同水谷一三等は右に副う様な証言をしている。然しながら、戦争終結直後の混乱期はともかく、少くとも原判決認定事実当時は相当秩序も回復していたのであるから右認定の非違事実は容認されていたとはいいがたく、又非違行為に対する懲戒処分はその都度行われなくても非違行為の累積を価値評価して行う場合もあり得るから、その都度懲戒処分が行われなかつたからといつて直ちに労働慣行があつたとなすことができないこと被控訴人等主張の通りであるから控訴人等の主張はその理由がない。

(6)  控訴人松原、同伊藤、同阿部は同人等について認められた事実によつて免職するのはあまりにも酷であつて免職権の濫用であると主張する。然しながら、本件は行政整理に関するものであるから普通の場合には免職にならない場合においても免職となることのあるのはやむを得ないことであり、免職権の濫用とならないことは被控訴人等の主張する通りである。

(7)  控訴人等は組合幹部は組合の決議執行機関であるから組合の決議を執行したからといつて組合幹部個人に責任を生ずべき理由がないと主張するが、組合幹部と雖も違法な組合決議を執行すればそれに相当する責任を生ずべきは当然であるから右主張はその理由がない。

七、本件処分が共産主義者及その同調者の排除を目的としてなされたものであり、且不当労働行為であるとの主張について。

(1)  本件免職は以上の説明並引用した原判決に説明する如く整理基準及非協力の内示基準に該当するものとしてなされたものであつて控訴人等主張の如く共産主義者並その同調者を排除する目的でなされたものであることについては之を認めるに足る証拠がない。成立に争のない甲第二号証は遠藤正介個人の見解であつて之より直ちに当時の郵政省並電気通信省の意見を推測することができない。両者の意見はむしろ原審証人築山金尾の証言によつて是認せられる乙第三号証によつて表明されているものといえる。又被免職者の中共産主義者及その同調者が多かつたからといつても共産主義者及その同調者の中に非協力と目されるものが多かつたというだけのことで、その事実から直ちに本件処分が共産主義者及その同調者をねらつたものであるということができない。事実共産党員で免職されなかつたものゝあることは原審証人下山忠の証言、原審における控訴本人松原勝美の供述によるも明である。又本件免職に当り思想調査が行われた事実については原審における控訴本人寺本久義は之に副う様な供述をしているが右供述は原審証人諏訪精一郎の証言と対比して信用しがたく他に之を認めるに足る証拠はない。その他控訴人等主張の事実が仮に認められたとしてもそれのみによつて本件免職処分が共産主義者及その同調者の排除を目的としてなされたものなることを推断せしめるものではない。

(2)  本件免職処分が不当労働行為であることについても之を認めるに足る証拠がない。

甲第二号証に対する説明は前段説明した通りである。無給の組合専従者を免職したとしても人件費の節約にならないというが本件免職処分は成立に争のない乙第四号証に明なる如く処分の公平を期するため非協力(正当な組合運動の範囲をこえる)者をも処分の対象にしたことが明であるから、組合専従者を処分したからといつて不当労働行為意思があるとなすことができない。又免職者中に組合役員又は著しい組合活動をなしたものが多く含まれているというが原審証人森田成一の証言によるも全逓の組合が戦斗的であつたことが認められるから勢い組合幹部又は組合活動をなした者の内に非協力と認められるものが多かつたというに過ぎない。又被免職者を多く出し過ぎて混乱しているといゝ原審証人村山永喜当審証人浜武司はその様な証言をしているがいずれも信用しない。成立に争のない甲第三号証は免職者の多かつた職場の臨時措置としてとられたものであつて之を以ても不当労働行為意思を推認する資料となすことができない。控訴人等の行為はいずれも正当な組合活動の域をこえたものであり之に対して懲戒処分を加えられなかつたとしてもそれが正当な組合活動となるものでないこと勿論である。尚組合活動をしないこと共産党を脱党することを条件として復職した例があるといゝ当審証人野浪正一原審証人坂本幸夫、同三宅庸夫はその様な証言をしているがいずれも信用しない。

以上の理由により控訴人等の請求を棄却した原判決は正当であつて本件控訴は理由がないから之を棄却し、民事訴訟法第三百八十四条、第八十九条、第九十五条を適用し主文の如く判決する。

(裁判官 県宏 越川純吉 奥村義雄)

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